「英文法指導」というか「グラマー指導」

 私は、学校英語教師の立場ではありませんが、一応自分の行なっている英語プログラムをベースにご紹介させていただけたらと思います。

 英語プログラムと言ってもいろいろなタイプがあり、以下の私の記述がうまく当てはまらない英語プログラムは沢山あると思います。
 この書き込みの内容の英語プログラムの対象は高校以上です。少なくとも週5時限以上ある高校、英語科、私立大学にエスカレーター式に上がれる付属高校。それと大学レベルでは、一般教養として英語プログラム、英文科・英語科の学生が対象になります。更に、英語の専門学校や英語スクールの生徒も一応の対象になりうるかなと思います。

 この英語のクラスには2種類のアクティビティーがあります。

1.ドリルのセッション(英語の4つのスキルを「習得する」セッション)

 − 媒介語はだいたい英語
 − クラスサイズは最大25名
 − 学生全員が他の学生全員のパフォーマンスが見れるよう、教師を中心とした半円形に座わる

2.グラマーのセッション(英語に「ついて」学ぶセッション)

 − 媒介語は日本語で、その日本語で細かくディスカッション
 − クラスサイズは50名まで
 − クラスレイアウトは一般的なもの
 − クイズ等はこのセッションで行う

注:
1時限50分のクラスで、35分をドリルのセッション、残りの15分をグラマーのセッションとしても良いですし、ドリルのクラスとグラマーのクラスを2対1の割合にし、それぞれを独立のクラスとしても構いません。出来れば後者が理想的。

 この英語プログラムの「グラマー」では、以下の2つの前提があります。

1.グラマーは、あくまでも目的である英語の4スキルを習得させる為の手段。つまり、ドリルのセッションが「主」で、後者のグラマーのセッションは「主」をよりスムーズに行わせるための「従」。

2.グラマーとは、英語の言語ルール全体のことで、(1)「文型文法」のみならず、(2)「発音のルール」、(3)「英語をいつ、どこで、どう使うのかに関する行動文化」も含む。

 グラマーの項目は、生徒に出来るだけ読んで理解させるために、数分のショートクイズを行わせることがあります。グラマーの詳しい説明を読んで理解しようとしても分かりにくい微妙な箇所はたくさんありますし、ドリルのクラスパフォーマンスで問題の出てきたポイントもこのセッションで細かく扱います。

 このセッションは、インタラクティブなディスカッションのパターンで行います。よって、先生の側からすぐに生徒に答えを与えないで、なるべく生徒の側から答えを引き出すようにします。ちなみに、生徒への指名はアトランダムに行います。

(1)文型文法のルール:

 例えばドリルのセッションとグラマーのセッションで下記の仮定法の部分をカバーしていて、「現在のことや未来のことを表すのに仮定法では過去形を使う」と言うことに関して生徒の理解がいくぶん曖昧だとします。

 このグラマーのアイテムに対して生徒の理解をかなり確保できた段階で、メカニカルな練習に移行します。先生が直説法か仮定法を含んだセンテンスを日本文(センテンスだけではなく、フレーズのケースもある)で言って、生徒に口頭で出来るだけ素早く英訳してもらいます(T=先生、S=生徒)。

T:「もし僕が君ならなァ〜」
S1: I wish I were you.

T:「太陽が無ければ、何も生きられないよ」
S2: If it were not for the sun, nothing could live.

T:「お母さんが料理をすれば、お父さんが皿洗いをします」
S3: If my mother cooks, my father washes the dishes.

T:「もし雨なら、私は家にいるかもしれない」
S4: If it rains, I may stay home.

T:「もしそのお金があれば、ヨーロッパに行くんだけどなァ〜」
S5: If I had the money, I would go to Europe.

T:「もしあなたが正しければ、私は間違っているわ」
S6: If you are right, then I am wrong.

T:「もし僕がそれを買えば、彼女は半分払うだろう」
S7: If I buy it, she will pay for half of it.

T:「もし僕がその車を買えば、彼女はその半分を払うだろうになァ〜」
S8: If I bought it, she would pay for half of it.

 このグラマーのセッションは、このようにグラマーパターンの理解を深め、メカニカルに言えるようにするまでが目的です。それをコンテクスト(状況)の中で使うのがドリルのセッションと言う位置づけです。

注:
ドリルのセッションは、「オーラル英語の習得」が中心になります。音声言語を習得して、その上に文字言語であるリーディングとライティングを乗っける形です。これは言語本来の自然な習得順序であり、リーディングやライティングの習得もスムーズに出来るように考えられたものです(コーネル大学名誉教授のエレノア・ジョーデン博士が作ったジョーデン・メソッドとして有名)。

このパターンだと、クラスで仮にリーディングを扱っていても、英語で書かれたリーディングの内容について英語のオーラルにて生徒とやりとりが可能となるので、リーディングのみならずリスニングとスピーキングの復習にもなり、ライティングの予習にもなっています(話せる英語は必ず書けます)。このように、言語の4スキルのバランスのよい習得が可能にするために考えられています。

(2)発音・イントネーションのルール:

 生徒からは一貫してより自然な発音・イントネーションを求めます。やはり文型文法同様、生徒に問題のある箇所はポイントを説明しますが、ポイントを理解させたあとはメカニカルに発音練習をさせたり、モデルを示したりします。

(3)行動文化:

 言葉でのインターアクションには、必ず言葉を使う“状況”があります。例えば英語の最も基本的な挨拶表現である“Hello.”でさえ、いろいろな場面や状況が必ず伴い、しかも英語の“Hello.”の使い方は日本語の「こんにちは」とはかなり異なるケースがあります。もしその両者の使い方の違いを「意識的」にカバーしなければ、“Hello.”は日本語の「こんにちは」の膨大な言語経験の上に乗るだけになってしまいます。

 例えば、誰かを訪問した時に“Hello.”を使うとします。まずドアをノックし、握手をし、“Hello.”と言って挨拶をし、座って話し始める。それぞれのシーンでのインターアクションの行い方は日本語と英語では全く異なっています。

1)日本ではドアのノックは2度だが、英語のセッティングではその数は倍くらいになる。2度だけのノックでは幾分奇妙(逆に日本語でのセッティングでは、4度ほどドアをノックするのは幾分失礼)。

2)握手をする時、特に男性対男性の場合は相手の手をしっかり握ること。日本人の場合、“謙虚”に相手の手をソフトに握る傾向があり、英語のセッティングではそれはdead fish handshake(死んだ魚をつかむような握手)と表現されるほどいやな印象を与える。

3)握手をしながらの挨拶はスマイルと共に行う。

4)相手の目を見ることも重要。

5)お互いの距離は日本語のセッティングより近い。つまり、いわゆる「おじぎ」は必要なく、少しうなづく程度でよい。

 もしこれらの日英文化の違いを知らないと、無意識に日本語での「常識」で行わざるを得ず、インターアクションがチグハグのものにならざるを得ません。

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